”えちごトキめき鉄道”は、北陸新幹線の開通に伴い、新潟県内の並行在来線の運営会社として設立された第三セクター鉄道。2015年3月以降、旧信越本線の「妙高はねうまライン」と、旧北陸本線の「日本海ひすいライン」の2路線を運営しています。
なんというか、すっげえ独特なネーミングセンス…と思っていましたが、さすがに5年6年経つと自分の中で何となく慣れて(?)きました。トキ鉄、なんてかわいい略称で呼ばれたりしています。
そんなトキ鉄が2021年に新たに導入したのがなんと国鉄型車両、413系+455系!マジですか!とずっと気になっていて、冬の帰省にかこつけて、ようやく乗りに行けました。
車両来歴
もともと七尾線、その前は新幹線開通前の北陸本線で走っていた車両です。特に、455系(クハ455形700番台)は、国鉄急行型電車の最後の生き残り…。413系も急行型改造の電車で、富山に数編成残っていますがこれも貴重。
そういえばこの電車、2014年の3月に北陸を旅した際にじつは一回乗っています。当時は正真正銘の急行形475系も現役で、しかしそちらには乗れず心残り…なんて思っていました。
その後新幹線が開業し、455形700番台は真っ赤に塗られて七尾線に転属。まだ急行形が残るんだなあとちょっと嬉しかったのです。結局、引退まで会いに行けませんでしたが…というところで更にトキ鉄へ転属のニュース。もうびっくり。
トキ鉄の現社長は、千葉県のローカル線、いすみ鉄道で社長を務めていた時にも、国鉄型気動車(キハ52)を導入したりしていた人です。
つまるところ、JRで不要になり安く買えるけれど、貴重な国鉄型を走らせてマニアを呼び込み、地域と会社にお金を落としてもらおう…という作戦で、私はまんまとハマったわけです。(楽しい)
車両の紹介
トキ鉄に転属したのは413系3両編成と455系が1両。うち413系1両が編成から外され、代わりに455系がくっつけられています。外された413系は直江津の「D51レールパーク」で展示されているようですが、今回は未見。
クハ455−701
おそらく日本最後の現役・交直流急行型電車となってしまったクハ455-701。
急行型といいつつも、通勤列車向けに改造されて運用されていたので、ロングシート席があったりつり革がついたり…と、かなり手は入っています。中間改造車なので、運転台も後からついたもの。
先頭にはヘッドマークが日替わりで掲示されます。これが列車名というわけではなく、鉄道ファン向けのサービスです。
車内は真ん中に8箇所のボックスシートと、車端側にロングシート。どちらも、普段の土日運用では指定席扱いになっていて、一日中乗り続けるツアーや食事つきツアーなんかに使われています。(ツアーの予約がなければ座ってOKらしい)
クロスシートには大きなテーブルが設えられています。テーブルで着座方向が制限されるので、直江津発の列車でのみ、進行方向を向いて座れます。
ロングシート部にも長机。ここもツアー向け指定席になります。
急行型らしさを残す部分としては…
まず、トイレ・洗面台付き。ちゃんと使えます。バリアフリー対応様式便座のある最近の電車と比べると、めちゃくちゃ狭いです…が、それでもあると嬉しい。
ドアが車両の端っこにあり、窓がずらーっと並んでいるのも、ドアが片開き式なのも急行型の名残。
また、行き先や種別・指定席案内・号車なんかの案内が金属板(サボ)なのも、急行型(というか、国鉄型)らしさでしょうか。
モハ412−6 / クモハ413-6
直江津側2両は急行型の車体を載せ替えた列車です。2両ともモーター付きなので、国鉄型らしい走行サウンドを楽しむならコッチがおすすめ。日本海ひすいラインの長大トンネルを高速で突っ走るときのウルサさケタタマしさといったら、もう最高…。
どの車両も、車内の掲示物は基本的にJR西日本時代のままですが、中吊り広告等は国鉄時代のものに差し替えられています。この辺のスタンスは、先行事例(というかトキ鉄現社長の前職)である、千葉県いすみ鉄道の国鉄型キハ28・52と同じです。
運行形態
妙高はねうまライン(旧信越本線)の快速1往復、日本海ひすいライン(旧北陸本線)急行2往復があり、基本的に土休日運行です。急行については平日運行があったりしますし、またツアー臨時列車でも走ったりしているようで、観光列車がメインですがいろいろ活躍しているようです。
また土休日運行では、455形は、クロスシート・ロングシートともに事前申し込み制プラン向の指定席車両。もっとも今回の訪問時は、ツアープランの設定がなく全車自由席扱いでした。年末の休日ダイヤ期間だからでしょうかね?
その旨放送はありましたが、表記類で指定席であることをかなりアピールしてくるのでちょっと混乱しました。
まずは妙高はねうまラインの臨時快速に乗ります。観光放送などもなく、至って普通のいつもの電車に国鉄型が充当されていて…という雰囲気。
直江津駅6番線を8時43分発→妙高高原駅9:37着、妙高高原駅9:44発→直江津駅10:35着のダイヤとなっています。ちなみに、東京から当日発だと、朝8時台には直江津駅にたどりつけません。(私は直江津駅前に前泊しました)
まあ、余裕で座れるくらいの混雑です。どの車両乗ろうかなと迷いましたが、全車自由席という放送があったのでとりあえず455形へ。テーブル付きのクロスシート席に余裕で座れました。
おすすめの席は、直江津発なら進行方向右側、妙高高原発なら進行方向右側。雄大な妙高山を順光で望めます。
ふだんはこの区間はロングシートのET127系での運行ですから、クロスシートに座ってゆっくり景色を眺められるこの列車は貴重です。
臨時”快速”としていますが、これは以前は直江津駅ー二本木駅で運転していた普通列車を、土休日のみ妙高高原駅まで延伸し、北新井駅・春日山駅を通過扱いとしたもの。
もっとも2駅通過しても、特に平日の普通列車と運行時間が変わりません。どうしてこういう設定としているのかよく分かりませんが…(急行型の間合い運用の快速、というマのを再現したいのかも)
流石にこれは不評なのか、来年のダイヤ改正では春日山停車に。
まあそれはそれとして、快速運転大好物のいちマニアとしては通過シーンを堪能しておきましょう。
車窓には田園風景、冬場なので一面の雪原が広がります。新幹線との接続駅である上越妙高にとまり、北新井を通過して新井にとまります。新井駅では、列車行き違いの為すこしだけ停車時間があり、外に出てみました。
新井駅は、今でも特急「しらゆき」や、北越急行ほくほく線から直通してくる超快速「スノーラビット」の始発/終着駅になっている、わりと大きな駅です。かつては快速「くびき野」もこの駅発着でした。そういえばJR時代に一度だけ降りてみたことがあります。
そして二本木駅。ここはスイッチバック駅になっています。
妙高高原駅ゆきの列車は、まず雪よけの中で停車し、そのままバック走行で駅へ。駅に停車して、そのまま妙高高原に発車していきます。(直江津行は逆パターン)
二本木ー関山間では雄大な妙高連山を望むことができます。ちょうど、数年に1度クラスの寒波が来た翌日。新雪に快晴、最高でした。関山から先は更に山深くなり、こちらもなかなか良い景色。
妙高高原駅では7分停車し、折り返します。停車中は絶好の撮影タイム…
あいにく臨時列車ですので、乗り換えられる長野方面の列車はありません。本当は国鉄型・しなの鉄道115系とのコラボをちょっと期待してました。
帰りは413系にのり、走行音を堪能しました。こんな良い天気なので、沿線には写真撮影勢も多いです。たしかにこれが撮れたらめちゃくちゃカッコいいだろうな、、
ちょくちょく見かけるのが、雪に埋もれた踏切。
豪雪地帯の割り切りとして、冬場は通行止めにしてしまうのでしょう、それでも変わらずカンカン鳴動している警報器が、なんだか健気…。
上越妙高駅では新幹線の接続があるのか、一気に人が増えてきました。ボックスシートからロングシート部に移ります。高田では、ほくほく線からの直通列車が遅れていて少々長めに停車し5分遅れ、全速力で走って直江津には4分遅れで到着。
車内清掃がありドアが閉まるため、一旦外に出て、急行1号の時間を待ちます。
もう一つの国鉄型快速
完全に余談ですが、トキ鉄を走る国鉄型の快速列車は他にも。
JRから乗り入れてくる新潟発の快速が115系です。前夜にお試しで乗ってみました。JRからの直通だからか、トキ鉄の切符販売を兼ねた車内検札があったりします。
乗車ログ:◆急行1号・2号・3号
快速の運用が終わると、今度は日本海ひすいライン(旧北陸本線)での急行運用に入ります。こちらは先の快速とは異なり、観光列車としてしっかり観光アナウンスが入ったり、物販が来たりします。
1号・2号は直江津ー市振間を運行、3号は直江津ー糸魚川間です。途中駅で15分程度の停車時間があったり、景色のよいポイントでは徐行をおこなったりと、急行と言いつつノンビリとした雰囲気。というか、「この列車は、急いで行かない列車、略して急行列車です」なんて放送がありました。自分で言っちゃうんだ、、、
まずは乗車券・急行券の拝見。今回使用したフリーきっぷ「トキ鉄ツアーパス」には急行券も含まれているので不要ですが、窓口で硬券を買っておいたので、入鋏をしてもらいました。また車掌さんは補充券も持ち歩いているので、頼めば売ってくれます。私も1枚記念に購入。
車掌さんのあとに続いて、乗車記念カードの配布があります。このとき車内販売のカートも一緒に回ってきます。
車内販売はこのあとも一度来て、記念にヘッドマークをあしらったマグネットシートを買いました。お布施お布施… 車内販売では鉄道グッズ以外にも、飲み物やお菓子なんかも売っていて、正統派?車内販売の雰囲気。
そして、なんと「神社」が回ってきて、よければお賽銭をおねがいします、と。
まあ要は、動態保存的なこの運行に対する寄付のお願い、なわけです。推しへのお布施、を、ガチのお布施にしちゃうのが面白いところ。455形にちなんで455円入れておきました。
お賽銭をすると、これまたお礼の御札、としてカードをいただけます。カードの裏面が昔の中吊り広告になっていて、コレクション欲をそそられます。
実際、455形もたいがい長生き、かつ、ある意味では運も強い…ので、ご利益あるのかも。
終着駅に着く前には、方向幕回しの案内が入ります。車両側面の「直江津」「糸魚川」と掲示されている部分のシートがくるくるまわり、「かつてこの列車が走った北陸本線の駅名が現れます」と。いまの電車はLEDによる行先表示が主ですから、なかなか見られなくなった光景です。マニアはみんなカメラを構えて、動画に写真に、、僕も毎回見てました。
随所で案内放送が入り、また写真撮影のための停車があったりします。時系列順で書くとクドくなりそうなので、沿線で印象的な部分を下記、直江津→糸魚川→市振の順でまとめてみます。
・直江津駅
1番線からの発車。ちょっと離れたところにあるホームです。JR時代にも、北陸本線富山方面の列車はここから出ていたので、前にも見たことあるな!という雰囲気。
急行1号では、出発してすぐ貨物列車とすれ違いました。日本海ひすいライン、貨物列車はそれなりの本数が長編成で走っています。
・谷浜駅ー有間川駅
このあたりは海岸線沿いを走ります。
長野県の北の方の住人は、このあたりのビーチに海水浴にやってきます。長野市で育った自分にとって、このあたりの駅名、名立・谷浜・能生…は、潮の香りと一緒に染み付いている地名。
小学校低学年ごろの思い出で、海水浴場から白地に青ラインの電車が見えた、というのを未だに憶えています。改めて地図を見ると、谷浜駅前に海水浴場がありました。ここに家族で来ていたんだろうな~。
有間川駅は、うまく写真を撮ると駅舎を通して海が映る、、というので有名らしく、案内放送がありました。海は国道を挟み、すぐそこです。
・名立駅
2号ではこの駅で15分くらいの長時間停車がありました。ただし「車外には出られますが、改札からは出られません」とのこと。時刻表にも記載がなく、運転停車扱いでしょうか。
長大トンネルに挟まれ、駅の下に川が流れているのが印象的な駅。
こんなロケーションになったのは、地すべり対策で大規模な線路の移設が行われたから。このあたりの旧線はサイクリングロードになっています。むかしこのあたりには、よく海水浴で来ていたのですが、海水浴場から山にへばりつくような不思議な道が見えたのを覚えています。あれが多分北陸本線の旧線だったんだろうな。
糸魚川方面のトンネルは頸城トンネル、JR以外の路線では一番長くて、11,353mもあります。
・筒石駅
その頸城トンネルのなかの駅、筒石駅。徐行気味に通過します。びー、びーと警報音が響いていたり、ホームとは別に横穴があったり…なんだか異界のような雰囲気の駅です。
「トンネルの中の駅は全国では5駅しかなく、珍しい」と放送での紹介がありました。5駅、どこだろう。たぶん山岳トンネルのことだから、上野駅の新幹線ホームとかは省くとして、、この筒石と、上越線の湯檜曽・土合、ほくほく線の美佐島、あと1つ、どこだろ?(調べたら、たぶん野岩鉄道の湯西川温泉駅ですかね)
・能生駅
1号・3号は能生駅で15分ほど停車あります。こちらも「車外には出られますが、改札からは出られません」という扱い。
なんとなく、能生騒動を想起させます。
国鉄時代に特急が止まることになり、街をあげて盛大にお祝いをして特急を出迎えるも… 実のところは、運転上の都合で停車しただけで、ドアを開けずに走り去っていった、というエピソードのある駅です。
名立で長時間停車する急行2号も、なぜか能生で2分だけ停まり、しかも無常に「すぐの発車ですので車内でお待ち下さい」なんて放送があります。運転の都合なのか、それともやっぱり能生騒動を意識してるんでしょうか?
先頭車両から降りようとしたら、雪。
気づいた駅員さんが慌てて雪かきをしてくれました(ありがとうございます)。普段止まる列車は長くて2両編成ですし、ちょっと予想外、という感じでしょうか。
反対ホームに行って写真を撮っても余裕なくらい時間があります。
・デッドセクション
電源の切り替えがあるため車内少し暗くなります、という放送があり、梶屋敷駅~糸魚川駅間の交直デッドセクションを通過します。
明るい時間の便だと、あー消えているなあ、くらい。
第三セクター化にともない、普通列車がすべてディーゼルカーになり、こちらは(そもそも架線からの電気で走らないので)電源切替の影響を受けません。これを体験できるのはこの急行だけでしょうか。
このデッドセクションのすぐそばに、最近新駅「えちご押上ヒスイ海岸」駅ができました。(あ、だからいまは「梶屋敷ーえちご押上ひすい海岸 間のデッドセクション」になるのか…)
電車時代は、うっかりデッドセクション内で止まってしまうと動けなくなるため、安全を考えると駅を作りたくても作れなかった、とされています。全車ディーゼルカーの今なら特に問題ないのでしょう
それにしても、会社名・路線名・駅名を「えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインえちご押上ひすい海岸駅」って繋げると、とても長くなり寿限無のようです。
・糸魚川駅
3号はここで終着駅。1・2号では糸魚川駅は途中駅ですが、ここでも15分程度の停車時間があります。撮影・観察タイム!
また、駅舎アルプス口には、マニアが無限に時間を潰せそうなスポットがあります。大糸線のキハ52とか東洋活性白土の蒸気機関車とか、トワイライトエクスプレスの再現モックアップとか、鉄道模型ジオラマとか鉄道グッズの展示とか…いろいろあります。
私も3号で糸魚川に着いてからざっくり見ましたが、これは危険ですね!帰れなくなるやつ。またじっくり見に来たい。
糸魚川ー市振(1・2号)
急行1号・2号は富山新潟県境ちかくの市振駅着・発の運行です。
・姫川橋梁
ヒスイでおなじみ?、姫川を渡ります。糸魚川駅で乗り換えられる大糸線は、この川に沿って長野県まで登ってゆきます。
・親不知子不知
天下の険、親不知子不知。親不知駅付近では、国道8号と北陸自動車道が海にせり出して通されていて、自然の、そして交通の凄まじさを感じる景観です。
JR北陸本線時代に一度この駅に訪れています。波の音に車の音に、すごいところ。逆に、駅舎や近くの集落は静かで、なんとも不思議な空間でした…。
線路は駅の部分だけ顔を出していて、その前後はトンネルで抜けています。本当に険しい地形です。
・市振駅
あいの風とやま鉄道、と、えちごトキめき鉄道の境界駅、市振。ディーゼルカーの普通列車は富山県側の泊駅まで直通しますが、急行はこの駅で折り返し。
駅の海側にはものものしい柵があり、海が見えづらいですが… あの柵の向こうはすぐ海岸線、これがないと荒れた日本海の大波をモロに被ってしまうんでしょう。
無人駅ですが、立派な駅舎。財産標にはなんと「明治41年」の文字…つまり1908年竣工ですから、もう100年以上使われています。鉄道開通(大正元年/1912年)よりも前から工事拠点として使われていた、歴史ある駅舎です。
乗車ログ:◆急行4号
糸魚川駅16時40発の急行4号は、先の急行1・2・3号と随分雰囲気が違います。
最高時速110kmで40kmを28分で走破する、と放送がありました。なんと表定時速にして85km/h。先の便であった「急いで行かない列車」の下りもなく、こちらはガチでの走りを楽しむ趣向となっているようです。せっかくなので、モーター付きの413系に乗車して走行音を味わいましょう。
冬のこの時間はもう日没で、どんよりと曇った空はどんどん暗くなります。デッドセクションでの消灯もはっきりと車内が暗くなり、非常灯だけが車内を照らします。
駅も高速で通過。途中停車駅はありません。
外はとっぷり暮れました。ひたすら走行音に浸ります。
そういえば、切符拝見と物販は来ましたが、神社は来ませんでした。3号でもうちょっとお賽銭しとけばよかった!
直江津に到着。1番線です。
1番線なら駅の外からもよく見えるので…ちょっと写真を撮りに。このあと発車シーンがみたいな、と、しばらく粘りましたが、18時まで特に動きはありませんでした。タイムアップ。
直江津8時43分発→直江津17時8分着、と、結局一日乗り回してしまいました。トキ鉄線内をくまなく走り回り、途中長時間停車もあったり、最後にはガチの高速走行…と、ぜんぜん飽きの来ない楽しい旅でした。
むすび
いまのところ、検査期限の切れる2023年の春までは走る…らしいです。経済効果によってはもう少し伸びるかも、らしいですが。
走るのが確実なのはあと1年間、沿線での撮影もしてみたいし、もう一度くらいは行かねば。