釜石線を走るSL列車・SL銀河が運行終了、というニュースが出たのが去年。気になっていたこの列車、結局このまま乗りに行けないのは悲しいな…と思うも冬場は運行がなく。
6月に入って、そろそろ夏だし、どうかな?とえきねっとで事前申込をしたら、釜石から花巻の片道、後ろ向きだけど、窓側がとれてしまった。行くしかない!
SL銀河の運行は、土曜日に花巻→釜石、日曜日に釜石→花巻、というのが基本。できれば往復で乗りたいのがオタクの性…、土曜日の便も取れないかな?とえきねっとを見つつセルフキャンセル待ちを粘るも、取れず。仕方なし。
別ルートで前日入りし、釜石駅前のホテルフォルクローロ三陸釜石に泊まって備えることとしました。
釜石駅:前日
前日、三陸鉄道で宮古から釜石に移動。列車が釜石駅に近づくと、青色に塗られた転車台や待機する機関車が見えてきます。
今日は花巻から釜石まで走ってきていて、その後の整備中なのでしょう。
その後16時15~20分頃、客車のみ移動し、駅ホームにとどめ置かれます。
客車は1番線につけていて、泊まったホテルフォルクローロ三陸釜石の部屋からも思いっきり見えました。今日はここで銀河と一夜を共にします、おやすみ。
釜石駅:当日
翌朝。朝風呂上がりにホテルの展望デッキに出てみたら、機関車が動きそう!カメラを持って駅横、「シープラザ釜石」裏の通路へ向かいます。ここからは駅構内がよく見えるのです。
連結作業は8時40分~50分頃に行われるようです。蒸気機関車はもう動き始めていました。誘導されながらゆっくりゆっくり、バック進行で客車の前へ。
今日の編成が完成しました。この瞬間を見ようと、傘が必要なほどの雨の中もそれなりに人が集まり、写真や動画を撮っています。乗る前からさっそく楽しいぞ!
釜石駅は、改札が列車発車の15~30分前に始まるシステム。
SL銀河は9:57分発なので、27分から改札だよ、と駅員さん。じゃあ20分ごろに行って待ってるかあ、と、連結作業を眺めたあと部屋へ戻り、のんびりチェックアウトして駅についたら、既にすごい人だかり。
あふれる旅行者の中、車内で売るお弁当の宣伝や、途中停車する遠野駅の観光案内が飛び交います。フォルクローロでニューデイズの割引券をもらいましたが、ちょっと混んでてそれどころでない。
いやいや、全車指定席なので急ぐ必要もないでしょう… ということもなく。お弁当が個数限定だったり、車内にあるプラネタリウム(!)の整理券数限られていたりするのだ。プラネタリウムはどうしても見たかったので、形成された列に加わる。
時間になり、改札が始まった。きっぷを見せて駅構内へ… あれ、隣の窓から駅員さんが呼んでいる、と思ったら袋を渡された。
「記念品の石炭です」そんなことある!? 早速面白いプレゼントです。袋には入っていますが、ズボンのポケットに入れっぱなしにしておいたら、空いた穴から粉が出てきてしまいました。とりあえず手持ちのジップロックに入れて保管。
ホームはもう結構な人だかり。
とりあえず自分の席へ向かって大きな荷物を置き、そのあと無事に車内プラネタリウムの整理券を確保して一安心。
SL銀河は機関車1両と客車4両で走り、私は3号車。折角なので、一通り車内や車外を見て回ることにします。
「SL銀河」編成概観
今日の花巻行、編成は下記のとおりです。
C58-239+キハ142-701+キサハ144-702+キサハ144-701+キハ143-701
列車の主役たる蒸気機関車、C58-239。3動輪のテンダー機関車です。青色のナンバープレートが特徴的で良いですね。
もともと盛岡市内の公園に置かれていたものを、走れる状態までレストアたそうで、よくやったものだな~と思います。運転台の横には7月らしく、笹の葉と短冊。そうか、七夕かあ。「銀河」だけになかなか良いチョイスですし、この列車が今後も運行されますように…とお願いも書かれていて、これはぜひ叶えてほしいな。
客車はグラデーションがかった青色に、黄色と金で宮沢賢治「銀河鉄道の夜」モチーフの柄があしらわれた4両編成。
車内は木の多く暖かいレトロ調で、観光列車だなあ~~という雰囲気。窓に合わせてボックスシートが並ぶのは「汽車旅」の雰囲気を盛り上げる。
1号車にはプラネタリウム、4号車には大きなソファと売店スペースがあるので、実際にお客さんが乗れるのは3両編成分くらいだろうか。各所には宮沢賢治にまつわる展示もされていて、結構見応えがある。
ボックスシートは2人がけが向かい合わせで、4人定員。なんというか結構な狭さだし、窓側は暖房の吹き出し口?があって脚にぶつかる。ちょっと窮屈だ。でも、これ昔地元で走ってた115系電車とか、こういう狭さだったな。その辺も含めて汽車旅らしさ、と割り切って乗ろう。
花巻ゆきは数字問わずD席が進行方向になるが、僕が予約したのはA席で後ろ向きになる。ボックス席を陸中大橋までは2人で、その先は3人で乗り合わせての旅となったが、D席に結局人は来なかった。進行方向窓側、その席が一番アタリなのに!
指定席ではない部分にもいくつか椅子があり、こっちに座っている人もいた。なにせボックスシートに大人4人では結構ギュウギュウ詰めになるし、ある種避難所の役割もあるのか。
ちなみに客車、というか、正確にはこれは無動力の客車ではなく、自走できるディーゼルカー。JRも一応客車とは案内せず「旅客車」と呼んでいる。
もともと北海道の学園都市線(札沼線)などで走っていた車両で、キハ141という形式。SL銀河用に改造されたので、今はキハ141-700番台を名乗っている。北海道にいたからか窓も2重窓、で、最初内窓も締めてたので、あれ?なんかヘン?と違和感。(とりあえず内窓だけ開けた)
ディーゼルカーなのは、釜石線の峠越えがめちゃくちゃ急勾配で、今の安全基準や出力を考えると、SLだけじゃ登れないから、らしい。SL銀河以前に運転されていた臨時SL列車では、ディーゼル機関車を2両余計に繋いでなんとか走っていたとか、そういうレベルの山岳路線なのだ。
もっとも、もともとキハ141系自体が50系客車という客車を改造したモノなので、機関車に引かれる姿は違和感がない、のかも。真岡鐵道とか50系客車のSL列車があるし。
ただ、ディーゼルカーなので結構エンジンがうるさく、蒸気機関車の音がなかなか聞こえてこない、というのはちょっと残念かもしれない。汽笛はよく聞こえるのだけれど、シュッシュッというドラフト音まではあまり分からなかった。
釜石→花巻
9時57分、雨の中。お見送りとともに駅を出た汽車は、細長い釜石の市街地に沿って進む。手を降ってくれる人が本当に多い。踏切まちの人、庭先の人、駅でカメラを構えていた人、家の窓から手だけを出してる人… なんというか、愛されているなあと、観光列車にのっていてほっこりする瞬間。
小佐野・松倉・洞泉と、ここまでの駅はすべて通過して、市街地が終わり山が近くなってくるともうすぐ陸中大橋。
進行方向左手を御覧ください、と言われて待ち構えていると、はるか上に大きな赤い鉄橋、鬼ヶ沢橋梁が見える。あそこに線路が通っていて、ここからが名高い釜石線オメガループ。これからあの橋まで、ヘアピンの形に180度曲がった線路で高度を稼いで登っていくのだ。よくやるよな…。
陸中大橋駅には10時29分着。11分ほど停車する。
駅自体はとても簡素で、駅舎もなくアーチ状のゲートがあるだけだけ。一方で、山側にある大きな建造物がとても目を引く。ホッパーというやつで、鉱山の駅だったことを偲ばせる。上の方に観光看板がついているのが、平成を感じるというか…。
かつては陸中大橋駅前まで製鉄所の社宅が広がっていて、この駅も大きな駅舎があったようだ。今でも駅前の郵便局は結構大きい。
もうすぐ列車がくるから注意するように、と案内が入る。オメガループを下ってきた快速はまゆり号がゆっくりと入線し、そのまま通過していった。かつての急行は停車していたそうだけれど、今の快速は通過なのか…。
10時40分に汽車は出発。ここからは本格的に山に挑む。陸中大橋駅を出てすぐトンネルに突入し、そのままぐるっと180度向きを変える。
ここがあのオメガループ、でもトンネルの中なのであまりよくわからないな、と思っていると外に出て、眼科に先程まで走ってきた谷と線路が見える。もうさっきの赤い橋の上にいるようだ。
その後更に線路は右に90度まがって、長さ2975mの土倉トンネルへ。
このトンネルが開通した1950年までは、割り切って、峠の区間は線路を敷いていなかった。旅客は徒歩や駕籠(!?)、貨物はロープウェイで運んだらしい。釜石線が全通し1本につながってからは急行列車が行き交い、いまや隣を高速道路が直線的に通り抜けている。交通の進歩というのは凄いものだ。
トンネルが多いので窓は閉めるように、という放送が入っていたが、それでも隙間や空調から煙が入ってきて、車内はどことなく煙たくなる。
3km弱、長い長い闇が続く。トンネルを出た一瞬に車窓は明るくなり、少し遅れてから煙が晴れて景色が見えてくる。そうか、これが蒸気時代の車窓というものか。
土倉トンネルを抜けると上有住駅。10時58分着、ここでも5分停車。
駅は少し高いところにあり、展望台のようになっている。集落はもう少し下にあるようだ。駅チカ洞窟”滝観洞”もあるらしく、気になるが、流石に見に行く時間はない。
上有住を出るとまたトンネルで、お次の足ヶ瀬でもドアは開かないが停車。ここまでの駅でもそうだったが、SLの整備のためちょくちょく停止しているようだ。さすがに山岳路線で、こまめに手入れをしながら丁寧に丁寧に走っていかねばならないらしい。
足ヶ瀬で山岳区間は終わり、隣の平倉をすぎると景色が開ける。遠野盆地に入った。
畑地が広がり、近くに山、広がる空、木々の緑、のびやかな夏の景色。大きな農家が多い。線路際すぐに牧場があり、牛が放されているのがみえて少し驚く。牛の方は慣れているのか特に驚きもせず、牧草を喰んでいた。
早瀬川を渡って山際を回り込むと、もう遠野駅だ。
遠野駅
遠野には11時46分から13時53分まで、2時間近く停車。ちょうどお昼時だし、観光も兼ねて市内でご飯食べてきてくださいね、という感じかな。
折角なので私も観光に…の前に、蒸気機関車の方に向かう。この駅でガッツリメンテナンスを行うようで、機関車が切り離された。そのまま走り、ホームの先端より少し先に止まる。早速人だかりができている。
カマに火を焚き、水を沸騰させて走るには、大量の石炭と水が欠かせない。線路際の消火栓からホースを繋ぎ給水、作業員さんは炭水車の上に登って石炭を崩している。
なかなか見られない光景、みんな動画に収めていた。
ずっと見ていられるが、しかし遠野は初めてなので歩いてみたい。ある程度で切り上げて、人気がすっかり引いたホームから遠野市内観光へ向かう。
ちなみに、釜石~花巻/新花巻で切符を買うと、距離が100kmに満たず、遠野駅では途中下車できなくなってしまう落とし穴がある。釜石~遠野、遠野~花巻で別々に買っておくと安心です。自分は盛岡まで切符を買っていたので、普通に途中下車しました。
たださすがに、2時間車内待機というのもキツそう…で、実際”お目こぼし”があるのか…?観察しておけばよかった。
市内でご飯(ジンギスカン丼!)を食べたり、市立博物館を見学したりして過ごします。流石に、カッパ淵や遠野ふるさと村あたり、有名所は遠すぎていけませんでした。また遠野、こないとな。
2時間は思いの外あっという間に過ぎ去り、遠野駅に戻ります。列車の度は乗りっぱなしになりがちなので、こういう途中下車観光ができるスタイルは良いですね。
プラネタリウムへ!
13時53分、遠野駅を出発。出発後しばらくして、整理券に書かれたプラネタリウムの上映時間がくる。それまで車内を見学ししつつ待ちます。
頃合いをみてプラネタリウム前で待機し、時間が来たら整理券を渡し、部屋の中へ。小さな倉庫くらいのサイズの部屋で、丸い椅子が感覚をあけて5脚。けっこう空間には余裕があります。
一時期は上映自体を中止していたようですが、今でも密を避けるため、定員を減らしてるんでしょうね。
室内の写真はNGでしたが(やはりプラネタリウムだからか)真ん中の台に小型の投影装置が置かれてました。これが結構本格的で、天井いっぱいに満点の星空を出現させます。
暗くなり、上映が始まります。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」、物語に絡めて星座の解説が入ります。真っ暗な中、星がきらめき、体にガタゴトと揺れが伝わり、先頭の機関車から汽笛が聞こえてきて…
すごく没入できる環境でした。10分間の宇宙の旅、他では得難いものです。これはみんな体験してほしいし、なんなら色々な観光列車でやってほしい。
そういえば、話が「どこまでもどこまでも旅してゆこう」で終わったからこれ、カンパネルラと一緒に行ったままジョバンニ帰ってきてないのでは…などと思考が重箱の角を突き始めますが、深く考えずに席に戻りましょうか。
遠野→花巻
少し時間を巻き戻します。遠野を起った列車は、またしばらく盆地の中を走ります。途中横をかすめる道の駅に大勢のギャラリーが詰め掛け、手を振ってくれました。
盆地が果て、また少し山際を走り、次の停車駅は宮守。
駅手前には有名な撮影スポット、宮守川橋梁があります。めがね橋と呼ばれる、美しい連続アーチ橋だけれど、まあこういうのは乗っているとわかりません。橋を渡る際、左側の車窓からたくさんの人が手を降っているのが見えました。
宮守駅へ到着、14時26分。ここでも7分ほど止まり、機関車の整備を行います。
折角なので先頭までいってみると、このあたりのホームは砂利敷で草が生えていて、なんだか鄙びて良い雰囲気です。
この頃から旅の終わりまで、すっきりと夏空でした。
列車は猿ヶ石川に沿って走り、国道283号線とも並走します。夏らしい青い田んぼと山々を背景に、車の後部座席から手を振る子供たち、夏の思い出ができる瞬間。
列車は北上高地から北上盆地へ、遠野市から花巻市へ。土沢駅には14時53分着。土沢駅の停車時間は3分と短いので、ホームに行くことはせず、少しだけ窓から写真撮影。
発車して土沢の街を抜けると、また初夏の中を走ってゆきます。盆地の中、起伏がありつつ拓けていて、なだらかに段々畑が広がります。
車窓をどう切り取っても絵になるのは本当にズルい。
まだまだ乗っていたいけれど、もう新花巻駅。大きな建物は東北新幹線の止まるホームで、釜石線はその下の控えめなホームに停車。15時6分着。
ここで降りる人も多い。そのまま15時20分の新幹線やまびこ66号に乗れば、東京には18時4分に帰りつける。
一方で、ちょっと驚いたけれど、ここから乗ってくる人もいる。近くの席に家族連れが座り、さっそく車内を探検していた。
そうか、人気列車で満員の日も多いけれど、こういった短距離乗車ならまだ可能性があるのか。乗れるのが11分だけだとしても、例えば観覧車に乗るようなものと考えればアリかもしれない。車両自体が魅力的だし、チョイ乗りでもよい思い出になりそう。
新花巻を出てすぐに大きな北上川を渡り、花巻の街が見えてくる。
大きくカーブした線路は東北本線と合流して、いよいよ終点の花巻駅。駅舎のある1番線に到着した。15時19分着。
釜石を出てから5時間22分ほどかかったけれど、途中で2時間の遠野駅観光があったから、さほど長旅という感じもしない。
花巻駅
混み合うホームを避けて、反対側のホームから写真を撮ったり、駅舎を見学したりして過ごす。入場券を買ってSLを見ようとする人もいて、なかなか活気のある駅となった。
むすび
客車の老朽化で廃止…というのが惜しいくらいに、良い旅でした。全体的に客車のインテリアが良すぎるし、車内プラネタリウムは没入感がすごい…。乗っておけて本当に良かったです。
沿線の見どころも多いし、蒸気機関車もせっかく復活させたので、なんとか代替車両で運行が継続されないかなあ…と切に願っています。