メークローン駅といえば、メークローンの線路市場で(たぶん)全世界的に有名だろう。一方で、バンコク市内から国鉄メークローン線でアクセスしようとすると、鉄道マニア目線ではなかなかクセの強さがある。
まず、メークローン方面の列車は、他のタイ国鉄線から完全に独立した始発駅(ウォンウェンヤイ駅)から発車する。そして、途中のマハーチャイとバーンレームの間はターチン川で分断されていて、渡し船で渡ることになる。
この渡し船を境に、バンコク側のウォンウェンヤイからマハーチャイまでの区間を、通称マハーチャイ線と呼ぶらしい。
2023年夏のタイ旅行では、バンコクからメークローン市場まで、メークローン線・マハーチャイ線を乗り継いで日帰り旅行をした。ハイライトはメークローン線側なんだけど、マハーチャイ線のいい感じの「都市近郊非電化路線」具合もとてもよかったので、紹介したく。
ウォンウェンヤイ駅
バンコク側の始発駅、国鉄ウォンウェンヤイ駅は、他の国鉄線どころか都市鉄道にも接続せず、完全に独立した駅になっている。一応、地下鉄にウォンウェンヤイ駅はあるけれど、わりと歩くので接続駅とも言い難い。
アクセスには地味に困る。結局、フアランポーン駅前に取ったホテルからシェアライドを使って向かうことにした。しかし出発時間を勘違いしていた上、渋滞にハマってしまう。車を降りると、ちょうどホームを汽車が出ていくのが見える。
まあ、知らん土地なのにギリギリに出た私が悪いのだ。仕方ないので、1時間後の次の便を待とう。
駅は1面1線の非常にコンパクトなもので、特段改札などもない。
日陰を得るためか、大きな屋根がホーム全体についている。その下にも屋台や商店が出ていて賑やかだ。美味しそうな匂いがホームにも漂うが、既にホテルで朝ご飯を食べてしまった。ちょっと勿体ないことをしたかも。
線路を挟み、ホームと反対側は道路になっていて、バイクや自転車が結構走ってくる。まだ比較的涼しい朝の時間帯だから、歩いている人も多い。洒落たカフェやセブンイレブンもあって、ちょっと日本的な「駅前」の雰囲気と重ねて見てしまう。
線路内立ち入りも特段咎められないので、ホームや線路上を含めて、一体の街として動いている様がなんだか面白かった。
セブンイレブンでお茶を買うついでに、少し奥の方に歩いてみる。線路脇まで集合住宅がせまり、その軒先には商店が出ているようだ。こっちもなかなか魅力的なロケーション。街と鉄道の近さ具合は、日本で言えば江ノ電的というか。
そろそろ列車の到着時間。フェーン、フェーンと汽笛が聞こえ、ゲロゲロゲロとエンジン唸らせながら、日本製のディーゼルカーがやってきた。どことなく親しみある車体の造りだけれど、こうも近くを通るとかなり迫力がある。
列車を見送り、足早に駅に戻る。自由席なので、さっさと席を確保せねば。
ちょうどホームに戻ったタイミングで、時報が鳴る。ああもう8時か!国旗掲揚時の国家演奏で、駅スピーカーから国王讃歌が流れ始める。まわりのタイ人に合わせて立ち止まり、しばし清聴。
放送が終わると、駅はまた騒がしさを取り戻した。
切符を買おう。マハーチャイ線は無人駅も多く、車内で車掌さんからも買えるみたいだけど、ここは有人駅なので窓口へ。
きっぷはマハーチャイまで10バーツ(約40円)だった。
印刷しておいた公式時刻表の記載を読み違えて、20バーツと少しを出したのだが、駅員さんに不思議な顔で突き返される。どうも、エアコン付き車両が特別料金のようで、僕はそっちを読んでいたらしい。
そもそもこれから乗る列車にはエアコン車はないようだ。折角なら窓を開けて汽車旅を楽しみたいし、もとより非冷房に乗るつもりだったけど。
タイ国鉄NKF型/THN型
嵩上げがされていないホームから、列車の床面までは随分な高さだ。ツーステップバスが可愛く見えてくるような段差を、よじ登るように乗り込んだ。道路側の列車の扉も開いていて、道路から直接乗り降りする人もいる。
4両編成で、車内にはボックスシートが並ぶ。両端の各2両はプラスチックむき出しの座面で、まんなか2両がクッション付きシート。プラスチックシートのほうが「NKF型」で、クッションシートは「THN型」らしい。
2扉でボックスシートが並ぶのは、日本国鉄車みたいな雰囲気だ。日本製なので、きっと同じ設計思想なのだろう。みんな似ているな~と思うようで、日本人ファンからの通称は「タイのキハ47」だとか。
ボックスシートを1つ確保した。窓は下降窓で、非冷房ゆえ開け放し。青い座席に銀のサッシ、さっきセブンで買った緑茶を置けば、あれ?青春18きっぷどこにしまったっけ?と不安になるような日本国鉄の香り。
帰国したのか?という気分になるけれど、飲もうとした緑茶の味がたっぷりの砂糖入りで、それがすぐに心をタイに引き戻す。
4305列車 マハーチャイ行き
8時35分、発車。マハーチャイ線はだいたい1時間ヘッドで、全線にわたってそれなりの乗車もあり、日本の地方都市の近郊電車な雰囲気。始発も終電もやたら早いのはタイだなあという感じだけれど。
車掌さんが鋏をチャンチャンチャンと鳴らしながら巡回してきたので、切符を渡して入鋏してもらう。
しばらくはバンコクの街なかを行くが、ここが駅なの?という雰囲気のところも多い。高架道路の下に仮乗降場チックな設備だけだったりとか、ほとんどの列車が通過してしまうような、よくわからない駅もある。
もうすこしタイ慣れしたら、途中下車して鉄道風景スナップも楽しいかも。
始発から15分くらい走って、ワットシン駅でウォンウェンヤイ行き列車と交換。このときは、これが最初で最後の交換列車だった。
段々と郊外へ、田舎へ。
田園風景に風に当たりながら浸っているうちに、再び街場らしくなってくる。線路は幹線道路沿に走り、小さな駅に停まり、そして建物がひしめく中に突入していく。
マハーチャイ駅
線路いくつか分岐すると、その先には市が立っていて、脇を汽車がスピードを落として走る。
踏切を越えると終着のマハーチャイ駅だ。大屋根に覆われていて、ホームはやや薄暗い。そんななか列車の写真を撮っている人が結構いるので、観光スポットにもなっているらしい。
先のローカルムードたっぷりの線路市場も気になるし、奥には車両基地もあるのだけど、しかしあまり乗り継ぎに余裕がない。あまり時間をかけて見ては回らずに、駅舎を出る。
駅前は海鮮市場のようになっていて、そのまま渡船の乗り場まで賑やかな通りが続いている。
ターチン川渡船
メークローン側の鉄道に乗り継ぐには渡船に乗らねばならない。たしか3バーツだった。雰囲気は概ね、尾道の渡船に近いものがある。天井は低めで、うっかり頭をぶつけてしまった。
人とバイクをギチギチに詰めてから動き出す。けっこう川幅は広くて、クルーズ感もありちょっと楽しい。
メークローン線側は別立てでブログを書きました。こっちはこっちで楽しかった。
4308列車 ウォンウェンヤイ行
帰りに戻ってきたときは、マハーチャイの線路市場はもう閉じてしまっている。少し残念。
帰りのメークローン側からの接続はちょっと悪く、1時間弱待つことになってしまった。市場や駅構内を見学したりしながら、列車までの時間を潰す。
ホームの端っこの方に立っていたため、列車が目の前に止まらず、乗り混むタイミングが遅れてしまった。かなりの混雑で、ボックスシートはすでに埋まり、ドア脇のロングシートになんとか座る。17時35分発。
ちなみにタイ国鉄はやけに終電が早く(マハーチャイ19時発)、この列車は終電2本前の便だったりする。
バンコクに近づくにつれ車内は更に混雑して、立ち客も増えてくる。学生もたくさん乗ってきて…というのは、JRの近郊路線なんかと共通する風景。どうもこのときは海外という気がしなかった。
ぼけっとスマホをいじっているうちに、ウォンウェンヤイには18時30分ごろ着。数分で列車はマハーチャイ方面に折り返して行ってしまった。
すっかり夕刻で、街は活気づいてきた。なかなかいい雰囲気だ。
ウォンウェンヤイ街歩きをしたい気分になったけれど、このあとは友人とムーガタを食べる約束をしているので、また今度。シェアライドを呼んで、一旦ホテルに戻った。
むすび
半ばメークローン訪問のおまけでのった様なマハーチャイ線だったけれど、個人的にはこの「ふつうの」近郊ローカル線風情がとても気に入ってしまった。
一方で、ウォンウェンヤイ~マハーチャイは、将来的には国電会社ダークレッドラインで代替される計画もある様。時代に合わせてアップデートしていけるのは良いことだけれど、この路線もいつかフアランポーンと同じく、かつての古き良き時代の汽車旅風景…になってしまうのだろうか?
もしバンコクにまた長く滞在することがあれば、ぜひ機会を作って沿線をぶらついてみたいところです。