ぱらのみっく・ういんどう

ひとり旅のブログ。乗り鉄中心、バスに船、街歩き。ひとつのテーマをじっくりと…。

ある意味世界的有名撮影地、メークローン市場への旅【タイ国有鉄道・メークローン線 2023/夏】

2023年8月、もう大手を振って海外へ行けるだろう、と、初めてタイを訪れた。バンコクを拠点に色々行ってみようか…と考えたときに、思い浮かぶのはメークローン市場とメークローン線。

メークローン市場、あるいはタイの折りたたみ市場・線路市場、といえば、タイ王国の観光地としてはかなり有名な方ではなかろうか。もとより鉄道オタクの私はともかく、両親も、オンライン英会話のフィリピン人講師も知っていたくらいだ。

ベタではあるけれど、やはり実際行ってみたい気持ちが勝り、1日割いて鉄道で往復してみることにした。

 

 

バーンレム駅

バンコクのウォンウェンヤイ駅から鉄道で1時間、マハーチャイの街から、さらに渡し船で川を渡る。

船着き場からは少し歩く。

干物やさんが並ぶ通りを少し歩き、学校の前を通り過ぎ、本当にここか?と思うようなでかい倉庫の脇を抜けて、バーンレム駅に到着する。やや離れているからか、自転車タクシーやバイクタクシーが船着き場前で待機していたけれど、まあGoogleマップがあれば迷わず歩ける距離だった。

 

バーンレム駅

駅は簡素な1面1線構造。とりあえずは終点メークロンまでの乗車券を買う。10バーツ、約40円。水ペットボトル1本と同じ値段だった。列車は1日4本、チケットは30分前から発売、と掲示されている。

駅窓口。ちゃんと有人駅です。

折角だから、このあとやって来る汽車の写真を撮りたいなと駅周辺をうろつく。数年前の旅行記に「保線状況が悪く、線路と地面がほとんど同化している」と書かれていたが、しっかりとバラスト敷きに整備し直され、白く眩しい輝きを放っている。

 

保線用の車庫?と思しき場所の脇でカメラを構える。もっと奥の方まで探索したかったけど、なにぶん野犬が多いようで、やめておいた。野犬はバーンレム駅のホームにもいたので注意されたし。

しばらくして、フェーン、フェンフェン、と警笛が絶え間なく聞こえてきた。汽車が来たようだが、そのやかましさに反してなかなか姿は見えない。カメラを構えてしばらく待っていると、鮮やかなメークローン線カラーの3両編成の気動車がゆっくりとやってきた。

ジャパニーズ・トリテツ構図で1枚。この色の車体はメークローン線限定だ。

乗り遅れたら大変なので、足早に駅に戻る。

汽車が入ってくると、なかなか引き締まった風景になります。カーブしたホームがおしゃれ。

このとき、ホームと駅前道路が完全に分断されてしまう。迂回もできるが、別に汽車の中を通り抜けても良いです。

 

駅に住み着いている?野良の犬や猫。海外では狂犬病の怖さが勝ってしまいますね…。というか写真撮ってないでさっさと距離を取ったほうが良いんですが。

乗り込んで席を確保。日本製気動車というだけあり、ボックスシートの並ぶ国鉄のかほり漂う車内だ。

後ほど撮影した車内。シートこそプラスチックむき出しだが、アールの付いた席手すりにつり革の形状、ドア横のロングシートに網棚、窓のサイズと、どうも日本国鉄の雰囲気が強い。日本人ファンの間での通称は「タイのキハ47」だとか。

進行方向向き、左側の窓際に座れた。10時10分頃に駅を発車。盛んに警笛を鳴らしながらゆっくりゆっくり走り出す。

 

車内の人々と雰囲気

思いの外、バーンレム駅時点では車内は混まず、ゆったりと座ることができた。日本人の家族や欧米系、中国系の観光客は見かけ、国際的ではあるものの、なんだか地元の人も多そうだ。

ほどほど混雑。

次の駅ではボックスの向かい側にタイ人家族が座る。大家族のようで、いくつかのボックスに分散しながら座った。僕の前には、おばあちゃんと孫?と思わしき二人が座る。

しばらくは母親が来たりもしていたが、そのうち、後ろの方に兄弟か親戚がいるのに気づいたのか、窓から身を乗り出して「おーい!」と声を掛け合っている。なんとも微笑ましい。

もっとも、たまに伸びきった南国の木々が車体をひっぱたくような路線環境だから、ケガをしないものかヒヤヒヤもしてしまう。結局あとで車掌さんに注意されていたが、それもなんとも穏やかな雰囲気だった。

こういう汽車旅、思い出にのるんだろうなあ…。

このまま、まったりと閑散ローカルな雰囲気が続くのかと思いきや、いや世界的有名路線、そんなことはない。

終点に近づくにつれ、更に観光客が乗り込んできた。隣にタイ人ガイドが座ったと思ったら、こんどは恰幅の良い白人女性に席を譲る。終点に着く前には通路まで人が溢れ、その混雑っぷりは日本の通勤通学ラッシュとさほど変わらない。

どんどん混んできた。

都心から離れれば離れるほど混雑する近郊ローカル線なんて、なんとも不思議な状況だが、要はメークローン線乗車体験付きのツアーが沢山組まれているということだろう。ハイライト区間はメークローン駅前の1区間だから、どうしても末端側で人が集中してしまう。

 

 

沿線風景:美しい塩田地帯をゆく

汽車は、事前にイメージしていた「ヨタヨタ走るオンボロローカル線」をいい意味で裏切るように、かなりかっ飛ばす。保線状況が悪すぎて、減便・運休すらしていた時期があった、とはなかなか思えない走りっぷりだ。一度しっかり手を入れたんだろう。

保線拠点?にはPC枕木が積まれていた。かなり手入れはされているようだ。

 

単線だけど、そもそも1編成しか動かないので交換もない。だから長時間停車も基本的になく、強いて言えば観光客が多い駅では少し長めに止めている程度だ。

船場があったり、駅前に大きな寺院が見えたり。

タイらしいなあという風景。

 

やがて、気持ちの良い塩田地帯が広がる。田んぼのような、波のない四角く大きな水たまり達が、雨季の晴れ空を移している。シギやチドリのような脚の長い鳥がいるのも見え、海こそ見えないものの塩っ気を感じる。

どこまでも夏色の塩田地帯。塩田を見るなら、南側の席がおすすめか。

南国らしい植物が茂る中にはバナナもみかけたし、並走する未舗装の道で大トカゲが這っているのには驚いた。野良犬が勢いよく並走してくればやがて駅だ。

高架道路下、仮乗降場じみたローカル駅。

 

1日4往復しかない路線だけど、駅前には簡単な商店や食堂があり、地元の人がくつろいでいる。どこまでもローカルな、しかし生きた経済や生活も感じさせる風景は見ていても飽きない。

乗り込んでくる人はかなり国際的だ。

ツアーのバンがたくさん停められている駅もある。

メークローン市場通過を車内から

のびやかな塩田地帯の中を走っていたのが、だんだんと街場らしくなる。汽車がフェーン!と汽笛を鳴らす回数も増えて、スピードも随分落ちた。

だいぶ街場らしくなってきた。

踏切を渡るとついにメークローン市場に突入する。線路脇、汽車のすぐそこまで建物が迫り、そして汽車と建物の間にはスマホやカメラを構えた人々がみっちりと詰まっている。車内からも歓声があがり、みんな笑顔だ。

 

見下ろせば野菜や香辛料

ツアーガイドのタイ人が車内から「ヘロウヘロウヘロウヘロウ!!!サワディーカッサワディーカッサワディーカッサワディーカッ!!!」と大声で騒ぎ立てる。中も外も、カメラ片手に大騒ぎで手を振る。向かいの席の男の子も身を乗り出して、外の人と何度もハイタッチ。

 

市場に分け入るにつれ、建物のみっちり度合いも人口密度も増してくる。そこを列車は最徐行。これまたハチャメチャに人が集まる多い踏切を超え、大屋根のついたメークローン駅に到着した。

駅前の踏切にも人が密集。何がなんやら。

メークローン駅に到着した

駅構内でも沢山の人が待っていて、大変な混雑だ。汽車を降りる。低床ホームだから、飛び降りるといったほうが正しいか。

ぞろぞろ降車。ステップを降りなきゃならず、かなり進みはゆっくりだ。

なんかもうすごい…

構内にはジュース屋やら食堂などがあっていい匂いが漂ってくる。お腹はすいているが、汽車の市場通過を外からも見るのが最優先。改めてスリ対策だけ確認の上、駅を抜け出してメークローン市場へと向かう。

 

 

市場の様子

市場は踏切を挟んですぐそこだ。駅周辺は大変な混雑だが、踏切部分には警備員さんもいるので問題なく道路を渡れた。線路上にはテント屋根が広がり、足元のレールとマクラギの他にはここが鉄道線路上であることを感じさせるものもない。あいや、列車を象ったお土産はたくさんあったか。

衣類は割と見かけた。彩り鮮やかだ。

トロピカルフルーツも。このへんは観光客向けなのかな。

市場が成立した頃はもう少し地元向けの市場だったのだろう。今はかなり観光地化が進んで、駅側では装飾品やタイパンツ、ドリアン、ベタなお土産。駅から離れればカフェなんかもあり、ここで注文すれば座ってゆったりと汽車の通過を眺められる。ただ、地元向けの商店が全く消滅したわけでもなさそうで、八百屋のような店や、乾物を売る店も多々見かけた。

駅から少し離れたほうがローカル色は濃いかも。

列車通過を眺められるカフェ。

踏切につきあたって市場は終わる、こっちの方はだいぶ人も少ない。



列車通過を見守る①

汽車の時間だ。市場全体に注意放送が鳴り渡る。泰・英・中、かなり独特なイントネーションだったが、日本語の放送が流れるのには驚いた。日本人もたくさん来るんだなぁ。

ピンポンパンポーン!!と、タイの国鉄駅でおなじみのチャイムも響く。その後はタイ語で聞き取れなかったが、おそらく発車案内だろう。

もうすぐ発車時刻。

テントが畳まれ、商品が退けられる。人間は線路脇に引かれた安全ラインまで下がる。雨季の晴れなのでじわじわ暑いが、みんな今か今かと汽車を待つ。国鉄の人がやってきて、人や商品がちゃんと安全な位置にあるかを確認する。

フェーン!と、聞き慣れた汽笛とともに、ついに汽車がやってきた。最徐行でゆっくりゆっくりと走る。

さっき乗ってきた時とは逆の立ち位置だが、大騒ぎなのは何も変わらない。目の前、触れそうな位置を触れそうな速さで銀色のコルゲートが通り過ぎる。視線を上にやれば沢山の人が笑顔でカメラを構えながら手を振る。

「ヘロウヘロウヘロウ!」と、さっきの便でも車内からまくし立てていた、あのツアーガイドの声も通り過ぎていく。

 

汽車がすっかり通り過ぎれば、こんどはみんなが線路に出てきて、その姿をカメラにおさめる。それを後ろから追いかけてくるようにテントが畳まれ、商品も戻されて、またすっかり市場が出現し、沢山の人が歩いている。

毎日こんなお祭り騒ぎが展開されているのだ。

正直なところ、ベタな観光地だし、オーバーツーリズムに辟易するだけじゃ、と思って来るか迷っていたのだけど、こうも騒がしいと頭が非日常・オマツリモードに切り替わってしまう。ただただ楽しかった。案外自分はこういうの好きなんだなぁ。

 

さて、汽車がいってしまった。次に来るのは3時間後だ。ロットゥー(ミニバス)でさっさとバンコクに戻っても良いんだけど、あんまり調べてない。とりあえず、ソンテウ(乗合トラック)でアムパワー水上市場に行けるようなので、見に行ってみた。

アムパワー。シーズン外れで水も少ないけど、いい雰囲気。

列車通過を見守る②

さて、次の列車をどこで迎え撃とう?とまた市場をぶらぶら。とはいえ暑くて暑くて、もう疲れているので、ココナッツウォーターを出す青果店に吸い込まれた。

値段は20か40バーツくらいだった気がする。青いココナッツを包丁でガシガシ切ってもらいながら、そうか、ここで座って見ててもいいんだなぁと思う。ちょうど、線路向きの席を案内してくれたので、ココヤシの実にささったストローをゆっくりゆっくり啜る。

ここで見てってくれといわんばかりの席。人が前に立たなければ、だけど。

市場構内に多言語で注意喚起放送が流れ、市場のテントがどんどん畳まれる。線路沿いに人が集まってきた。幸いなことに?僕の前には人が来ないし、そのまま座っていよう。

遠くからフェーーーン!フェン!フェン!と汽笛が聞こえるけど、やはりゆっくり進んでくるから、なかなか姿は見えない。動画を撮っていたスマホが熱暴走でやられてしまった頃、ギャリギャリガタガタと走行音が近づいてきた。

ゆっくりと、しかしあっというまに、タマネギや唐辛子のめのまえを、3両編成の汽車は通り過ぎていった。

店のお姉さんにありがとう、と告げて青果店を出れば、やはりもうすっかり元の市場に戻っている。

 

帰路:ローカル駅舎観察

次の汽車で帰ろう。発車は1時間後の15時30分だが、なにぶんこの暑さで疲れているし、座れなかったらしんどい。

駅では切符はもう売られていたので、バーンレム、アダルトワンパーソン、と10バーツを差し出すお決まりのやり取りを終えてから、さっさと汽車に乗った。無事ボックスシートを確保し、ぼーっとして過ごす。

窓サッシを引っ掻いて落書きする文化、なんとタイにもあったらしい。(黄色でハイライト)

帰りは行きほどの混雑ではなかったが、それでも沢山の人が乗り込んできた。やはり車内も車外も大騒ぎで市場を通過する。

出発進行!

午後は雲が出てしまった。しかしまあ、何度も思うがすごいところを走る…。

今度は、行きとは反対に、北側(バーンレム行で進行方向左側)に座ってみた。こちらでは、色々と駅舎を見ることができて面白かった。

Lat Yai駅。ツアー拠点なのか、ここで観光客が一気に降りる。足もとが結構ボロいぞ。

Ked Muang駅。いい感じに待合室がボロい。

Bang Thorat駅。ホームがないような…というか駅名標そこなんだ。

Ban Bo駅。なんだか駐輪場みがある。

Bang Krachao駅。秘境駅ポイントが高いが、降車客がいた。

駅ごとにツアーの観光客はどんどん降りてしまい、バーンレム駅につく頃にはローカル線の雰囲気を取り戻していた。ただ、ローカル駅でも乗り降りはそこそこあったから、地元の日常利用もそれなりにあるのかな、と思う。

バーンレムの街に戻ってきた。

駅到着。降りるときは、やっぱりちょっと怖い。

このあとは友人と飯の約束があるから、渡し船とマハーチャイ線に乗り継いで、さっさとバンコクまで戻らねば。

 

結び

まず今回、メークローン線に乗るかは結構ギリギリまで迷っていた。

そもそも有名観光地に行ってもなあ……混んでそうだしなあ、という気持ちが大きかったのだ。結局行くと決めたのは前日である。発展著しいバンコク近郊、案外こういう風景はアッサリなくなり得るし、少しでも気持ちがあるなら行ったほうが良いかな…と思ったので。

行ってみたら、これはこれでとても楽しかった。どうも僕は、混雑は苦手でも「お祭り」は大好きらしい。観光客目線で見ても、オーバーツーリズムを感じはしてしまうもの、それでも八百屋のおっちゃんが楽しそうに列車の通過を見守っていたのが印象的だった。

個人的にはやはり、行っておいてよかったなあ、と思う。

時間を優先して、ツアーに申し込むんじゃなくて、汽車で自力で行ったのもなかなかいい経験になった。窓開けて夏のキハに乗るのは、もうそろそろ日本ではできなくなりそうだけれど、タイでならもうしばらくは味わえるだろう。

これからは海外でも、色んなところで乗り鉄をキメていきたい。