ぱらのみっく・ういんどう

ひとり旅のブログ。乗り鉄中心、バスに船、街歩き。ひとつのテーマをじっくりと…。

まさかりの北辺を描くバス【下北交通佐井線・2022年秋】

仏ヶ浦からの観光船で、下北半島の果て・佐井港までやってきた。もうシィラインの最終は出ているし、ここからの移動手段は下北交通のバスになる。

 

 

さいはてのバスターミナル:佐井車庫

佐井港から乗っても良いのだけれど、始発停留所の「佐井車庫」へ向かう。徒歩10分程度だったと思う。

西日が強い。廃船に海のちかさを感じる。

 

未舗装の構内、錆びた三角屋根。

そう、佐井車庫………さいはてのバス車庫。

3台分が収まるだけの屋根に、赤色のバスが休んでいる。右側の1台はずいぶん古そうだ。構内は未舗装。敷地脇のススキが秋の西日に照らされる。バス停は半ば、隣の敷地から伸びた草に飲まれている。

ここは以前SNSで目にしてからずっと来てみたかった。

時刻表。日5~6本がむつ市方面へ。他にもコミバスや通学バスが停まる。

さいはてと言いつつ、ここから先にもバス路線はある。

佐井村コミュニティバスは長後まで(火曜のみ福浦まで)走るし、下北交通・長後線も、磯谷まで19時台の片道1本が走る。前者は通院・通学バス、後者は通学バスとしての設定のよう。平日のみ運行になっているし、朝集落を出、昼・夕に集落に戻る運行…だから、外来者が乗るには厳しい。

運転士さんが隣の建物から出てきて、バスに乗り込む。エンジンがかかり、前面のオレンジのLED表示板は「下北駅」と表示。そのまま未舗装の構内を力強く進み出て、停車。

ああそこから乗るのね、とバス停前から車体を回り込むように前扉へゆき、整理券を取って乗り込む。

エンジンがかかる。少し新しそうな、真ん中のバスが動くようだ。

勝手がわからないが、とりあえずドアが空いたので乗り込む。

 

バス車内の様子

バスは前乗り前降り後払い。中扉は一応ついているが、ここは車椅子専用として封鎖されている。

例のごとく最前列の「オタ席」………前面展望が楽しめる、フロントタイヤ上の一段高い席、はコロナ対策で座れない。一番うしろまでズンズン進んで、最後部シートで海側となる左側に座る。

中扉。普段は塞がれている。

ここはバス全体が見渡せるし、後ろを振り向けば道の写真も撮れなくはないから、それなりに好きな席だ。

西陽さす車内。今はまだ空いている。

後ろを振り返って。車庫がより近くに見える。

佐井車庫→佐井

結局ここから乗るのは私一人だけで、時間になりバスは発車。2時間20分ほどの旅が始まる。下北駅までの運賃は2500円だ。

強い秋の西日を受けながら、佐井の集落の中を走る。なんだか眠たくなる。

知らない町を眺める、のんびりとした時間。

こんなのんびりした雰囲気はほんの一瞬で、15:44「佐井」からは大勢の人が乗ってきた。整理券を取るときにフィー!と音がなるので、その音と頭の数を数えてみると14人。カラフルなジャンパーとリュックを背負っていて、トレッキングや仏ヶ浦観光帰りの観光客とみた。まあ、私もその中のひとりだが。

佐井港・佐井バス停のある「アルサス」
交通ターミナルであり大講堂であり博物館であり宴会場であり展望台であり、お土産屋さんであり、食堂でもある。

中心部といった感じで、多くの商店が並ぶ。

「佐井」は、シィラインや観光船のターミナルとなっているアルサスの前にあり、近くには商店も多い。この日はピザハットの出張販売が来ていた。
710(なないちまる)というコンビニがあり、午前7時から午後10時までの営業が由来のようだ。(ただし時短営業中)

来る前に寄ったのだが、中は至って普通のコンビニの品揃え。大好きなアーモンド効果もある。お酒の棚がレジ横に重厚に聳えていたし、もとは酒屋さんだろうか。

ちなみに、最寄りのセブン-イレブンは海を渡った函館だ。

 

佐井→大間崎

バスの座席は一気に埋まり、すぐの発車。下北半島はよく「鉞(まさかり)」に例えられるようで、ここからバスは大畑まで、まさかりの上側をなぞるように走る。

海、そして風車。なんとも雄大車窓だ。

そういえば、佐井車庫を出たときから運賃表示機が「黒岩」のままだ。

壊れているのか?とおもったけどそうでもないらしい。黒岩を出ると「新釜」と表示されるが音声では「次は材木」という。

謎だ…が、たぶん運賃境界のバス停を示している、つまり次が材木だろうと「新釜までの各停留所の運賃はこちら」なのでは無かろうか…と推測。昔の運賃表示機はロールシート式であり、こういった「○○まで」で表現していたというから、機器が更新されても表現方法が変わらなかった、ということかもしれない。

 

この表記法、外来者にとってはなかなか混乱する。目的の停留所よりも前でボタンを押してしまう人がちょいちょいいた。ローカルバスは乗ってみるまで全く文化が分からず、それが怖いところであり、また一番面白いところでもある。

「材木」のバス停は名前の通り?木製の立派な待合室があり、ここで時間調整のため少し停車。

材木バス停。これからの厳しい冬を考えると、この待合室も必須だろう。

車窓から見えるのはまず海、木立、草原、あとは風力発電機。太陽光発電のパネルもたまに。

風車は結構多い。風、強そうだし…。

風車は回っていないものも多い。形も1機ごとに違いがあり不思議で、実験設備のようにも感じる。


縫うように、という表現が似合うような、道路と海岸線とはついたり離れたりしながらも並行する。車窓は絶景、しかしそれ以上に西日が強烈だ。結構ガタガタと揺れるが、道由来なのか、はたまたバスの最後部だからか…。

原野、風車、そしてたまに集落、というところに2車線道路が貫く、がこの辺の基本的景観だろう。

西陽は強烈。10月半ば、旅人は日の短さを感じてしまう。

佐井を出てからこのさき下風呂のあたりまでずっと、パトランプのついているプレハブ小屋を見かけた。赤い光がぴかぴかとバスの中まで激しく主張してくる。

なんだろう?

いくつもあるがそのうち「工事車両マナー監視中」と見えて、また右上に「JPower」のロゴがついている。発電所の工事でもしてるのか……ああ、大間原発か!!!

国道から大間の町へ折れた道。この写真だと左手奥の方に原発があったらしい。

なるほどこの道は主要な運搬ルートなのだろう。流石に原発だし、相当に気を使いながらの工事ということか。当の大間原発は乗っていて気づけなかった…が、そういえば色々建物が見えていて、あの辺りかなぁという雰囲気はわかる。

この交通監視所は特に気を使うべき集落近辺に多く、下風呂まではしばしば見かけた。

 

国道から折れた先、「中磯」バス停でしばし時間調整。

中磯バス停も待合室があった。後ろのススキ原が美しい。

そのまま海の方に向かい、ホルモン焼きの店(気になる)の前をすぎると「フェリー乗り場前」につく。

津軽海峡フェリー・大間函館航路の乗船場だ。きれいなターミナルビルだが、フェリーの姿は見えない。函館行の終便は14:10に出てしまっていて、一方大間につくのは11:00と18:00…だからこのバスからはまったく接続がない。

フェリー乗り場は閑散としていた。

乗り降りする人はおらず、ターミナルの前をぐるっと回って通り過ぎる。
次は「マエダストア前」。店舗名がそのままバス停なんて、しかしローカルだなぁと思っていると、大きなロードサイド店舗が見えてくる。

「マエダストアー前」周辺。かなり賑わっている。

ああ、青森の大手スーパーはマエダストアというのか。他の街で言う「イオン前」みたいなもので、何も変なバス停名ではなかった。すぐ近くに大間町役場もあり、こちらが自動車時代の大間の中心地、という雰囲気。

そのまままた折れて、大間の街を下ってゆく。かなり狭い坂道だが、バスはずんずんと踏み込む。16:11「大間」バス停着、ここで2人が乗ってきた。佐井を出てから初めての乗客だ。

個人商店にも大きなマグロ。

大間の街をバスが縫う。日和町(ひよりちょう)という暖かそうな名前のバス停を過ぎ、次は「大間崎」と流れると降車ボタンが押された。

 

大間崎→下風呂

ビジターセンターの建物の前にとまる。ここで4人が降り、5人が乗ってきた。バスが発車すると岬のモニュメントが見え、ああここが本州最北端…と感慨に浸る。すぐ通り過ぎてしまった。

本州最北端。右奥に弁天島が見える。

さらに16:21「朝日町」で1人を追加し、バス車内の座席はほぼ満員に。まだまだ先は長いが、こんなに乗っていて大丈夫だろうか?

公園かなとおもったら昆布の干場だったり、厳つい漁船の並ぶ港があったりと、海の香をガラス越しに味わう。

昆布干し中の皆さん

16:27、病院ロータリーから玄関前に乗り付けて「大間病院前」着。ここからは3人が乗ってきた。通院帰りだろうか?

バスが付いてすぐ、病院の自動ドアを警備員さんが手で締めている。このバスが出たら病院も営業終了ということなのだろう。

大間病院エントランス

大間病院はこのあたりの基幹病院のようで、他の佐井線の乗車記を読むと、平日の乗客はほとんどがここの利用者だ…という記述もある。佐井車庫で話題に上げた、佐井村コミュニティバスの最終目的地もここだ。このあたりの公共交通需要は、おおむね観光地とこの病院が生み出しているという感じか。

さらに、大間高校・大間中学校もこのすぐ近くだ。通学需要もあるならば「大間病院前」バス停の利用者はかなり多いのかもしれない。

 

更に3人乗ってきたので、バスはぎゅうぎゅう詰め。前の方に座っていた人は余裕のある最後部座席に詰め、お年寄りには入り口へ近い席を譲る。

 

潜石(もぐりいし)、蛇浦(へびうら)と海辺らしいバス停名の数々に喜んだり、干されている昆布を見たり、またはパトランプ輝く交通監視所を気にしたりしながら、引き続きバスに乗る。

暮れゆく海

16:37に「易国間(いこくま)」到着。風間浦村の役場がある集落だ。1人が降りていった。

易国間から先、一度災害で崩れているようで片側交互通行区間がある。しばらく待ってから通った橋の部分には、仮道を通していて、上流には砂防ダムが見える。土石流が起きたのかな…。

修繕の道路。真新しいコンクリートが眩しい。

すっかり暗くなってきたが、また大きな街の中に折れていく。旅館街が続く…ここが下風呂温泉か!!

正直、この温泉には強い憧れがあり、ずっと泊まってみたいと思っている…が、旅程にうまく組めず、宿の予約も結局せず、今回はスルー。またいつか。

下風呂の旅館街

バス停徒歩0分の温泉「海峡の湯」

「下風呂温泉」には16:52着。海峡の湯という温泉の前に止まる。3人が降りて、1人が乗ってきた。脳内に暖かそうな温泉が思い浮かび、ここでの途中下車も考えたが、このあとの旅程を考えて車内に留まる。(次は終バスで1時間半後だ)

 

下風呂→大畑

甲(かぶと)を過ぎて赤川(あかがわ)に差し掛かるとまた片側交互通行。ここも大規模な迂回路が設定されている。集落の中というのに増水は橋ごと流してしまったようだ。

赤川の工事現場。家並みのなかにあり、ちょっと大変なことが起きたのかもしれない。

そういえば、このバスについて調べているときに、随分前の区間運休のお知らせを見つけて不安になった。ここのことか、うむむ…。

あたりはだいぶ暮れてきて、見える海も薄暗くなる。車窓には海辺に建つ学校が見えたが、教室内には机も椅子もない。廃校だろうか。

「つぎは木野部峠(きのっぷとうげ)」と案内が入り、バスはカーブの多い山道を登坂車線で登り始めた。海岸沿いは難地形なのだろう。カーブを切るたび、左右にGがかかり揺さぶられる。

木野部峠。きのっぷ、の響きにはアイヌ語を感じるが、どうなんだろう。

ちなみに「木野部峠」はホントに峠の部分にバス停があったが、果たして誰が使うのだろうか。バス停を過ぎると再び下り。道路からは一瞬海と街明かりとを見下ろして、いよいよ大畑の街が近いか。


1708の「二枚橋」あたりで、建設が進められたものの開通しなかった未成線・大間線の遺構が残されているのが見えた。実は、下風呂の有名なアーチ橋はボーっとしていて見損なってしまったのだが、他の場所にも立派なアーチが残っている。

大間線遺構。これもいつかは巡ってみたいものだ。

もし大間線ができていたら…今回の旅はどんなものだったろう。

佐井からのバスを大間港で降り、ディーゼルカー(きっとキハ110だ)に乗る。線路は高めの場所にあって、見下ろすように海を眺め、街ごとに人をのせ、下北駅まで……そんな情景が浮かぶ。きっと大間や下風呂の風景もまた違ったものになっていただろうし、列車交換待ちで外の空気を吸ったりもできたかも。

まあ、仮に開通しても、2022年まで廃止されずに残っていたか、微妙なところか。

             

17:10「湯坂下」で1人降り、そして大畑川を渡る。もう大畑の中心部だ。

広くゆるやかな流れが、港町らしい。

 

そのまま「大畑駅」には17:13着。

駅、とはあるが、鉄道(国鉄大畑線→下北交通大畑線)は2001年に廃止されてしまっている。しかし今でも立派な駅舎や線路、車庫が残されていて、車庫の中に稼働状態のディーゼルカーが眠っているという。

大畑駅舎。いまも、出張所・バスターミナルとして現役だ。

大畑駅では5分ほど止まり、その間にトイレや休憩となる、と下調べの際情報を得ていたけれど、この時は外に出る人は居らず、みんなでそのまま待つ。

地元民でなければこういったお決まりは知りえないし、やはり今日は観光客が多いのか。あるいは少し遅れているから、というのもあるかも。2分停車後、17:15に「大畑駅」を発つ。
1人が乗ってきたが、これは下北交通の人だろうか??乗客という雰囲気ではなく、周りのお客さんの質問に答えるなどの対応をしていた。

 

大畑→むつバスターミナル

大畑駅から先は、下北交通・むつ線として、公式の時刻表も別れている。おおむね1時間に1本が設定されていて、大畑線の鉄道代替バスとしての役割も担う。

日は暮れたが、しばしば乗降がある。まだ大畑の街の中のようで、乗車人数は段々と増える。17:21「水木沢」で1人、17:25「鳥沢」で1人、17:28「浜関根口」でも1人。じわじわと人が増えるも、うまく詰めて、みんな座っている。

 

すっかり暗いが、青く鈍い空の下、家並みの形は辛うじてわかる。家並みの向こうは海のようで、水平線近くに眩い光がいくつもついている。

ああ、あれはイカ釣りの漁火だろうか。初めて見たが、思いの外はっきりと明るい。バスの中でも「あれはイカ釣りだよきっと」と声が上がる。

輝く漁火。けっこう明るい。

この真っ暗の向こうにもまた、大きな北海道があって、たくさんの生活があるんだよな、とひんやりした窓に顔を近づけ、感傷に浸る。

 

大畑の街を外れ、再び279号線に乗る。今度は海岸線から離れて、下北半島の細まった部分を横断する。17:40には「むつ中学校前」を通過。ここでの乗降はなかったが、むつ市(田名部)の市街地が始まった。

ローソンだ。だいぶ町に戻ってきた感じがある。

途中、降車ボタンを押した人がいるものの、どうも前方の表示器に「むつバスターミナル」と表示されていたので、押してしまったようだ。先述の通り、これは必ずしも次のバス停を示すものではないようで、止まったものの乗降はなし。

その「むつバスターミナル」には17:45に到着した。14人が降りたので、降車にも時間がかかる。服装を見るに、大半は佐井から乗ってきた観光客のようだ。このあたりの人なのか、または市内のホテルに泊まるのだろうか。

むつバスターミナル。今は普通の路上停留所になってしまった。

「むつバスターミナル」は、今年の6月まではバスレーンを備えた建物があった。発売業務や案内放送もあったりと、市内の交通拠点として機能していた。しかし今は取り壊されてしまい、バスは道路上、スーパーの前に発着する。

発車したバスはそのまま道の突き当りまで進み、ぐるんと180度方向を変える。JRバス田名部駅、とかかれた建物が見えるが、止まることなくまた来た道を戻る。ここはかつての大畑線田名部駅だったようだ。

むつバスターミナル、鉄道駅(下北駅)からはずいぶん遠いなと思っていたけれど、元々は中心市街地の駅前にあったのだな…と気づく。

ターミナル跡の更地。なにもない。

バスの車窓を凝視していると建物の間に大きな空き地が見える。ここがバスターミナルの跡地だ。3階建ての立派なターミナルも、すっかり更地になってしまった。もしまだ残っていれば、いっそ途中下車したのだろうけれど…。

 

むつバスターミナル→下北駅

その後も下北駅に向かってバスは進む。佐井線もむつ線も、バスターミナル止まりの便というのはわりとあるようで、「下北駅直通」と放送では案内している。車窓からは歓楽街や銭湯がみえ、またコンビニも何件も見かける。ローソンがやけに多い。

 

下北半島と聞けば、最果て…というイメージばかり先行してしまうけれど、むつ市はとても栄えた大きな地方都市。それでも青森・八戸までは鉄道で2時間弱かかる地であり、なんだか、うまく言い表せないが不思議な気分だ。

交通量も増えてきた。

バスターミナルを出てからすっかり空いてしまったが、さらに17:52「むつ郵便局前」で2人、17:55「緑町」で1人が降りた。このあたりは純粋な地元利用なのだろう。
前方、道路の向こうに駅舎が見えてきた。17:59、ついに「下北駅前」に到着。2時間20分ほどの旅が終わり、ついに終点だ。ギリギリで大湊行の列車とは接続せず、発車していくのが見える。

 

意外と言ってはなんだが、遅延もほとんどない。(定刻は17:55)

おつかれさまでした。

「回送中です」表示が灯り、去っていった。

佐井車庫~下北駅前の運賃2500円を運賃箱に入れ、駅前に降り立つ。乗客が降りると、余韻を味わう間もなく、バスはすぐに回送されてしまった。

駅周辺はかなり町の外れのようだ。日が暮れて寒いこともあり、あまり歩き回る気にもならず。そのまま駅で待って、八戸行きの列車に乗り込んだ。

下北駅舎。小さめだがキレイで暖かい。